小学校の頃にはやったおまじない。
あれの効果はいかほどだったのだろうか。

 

「あ」
「あ?」
ふと、春が足を止めて廊下の壁を見つめている。
何事かとその視線を追うと壁に相合傘が書かれていた。
「あいこ」と「なお」という可愛い丸字で書かれた名前が並んで書いてる。
相合傘とは又懐かしい物を見たと悠太は思った。
「小学校の頃、すごくはやりましたよね。」
「今時まだする人いるんだね。」
鉛筆で書かれたソレはだいぶ薄くなっていた。
少し前のものなのか、それとも鉛筆だから。
なんだか、とてもチープで幼稚なものに見えてしまう。
まぁ、実際幼稚なんだろうけれど。
「おまじない、上手くいったんでしょうか。」
そっと、そのまじないをなぞると春はどこか切なそうに呟いた。
優しい子だとは思っていたけれど
こんなまじないをした見知らぬ他人にまでその優しさを見せるとは。
つくづく優しい子である。
しかし、そのおまじないに効力などまったく無い事を悠太は知っていた。
瞬間思い出した苦い記憶にじんわりと胸が侵食される。
「そんなんで上手くいったら世の中カップルだらけになれるね。」
つい、つんけんどんに返してしまい悠太はしまったと顔をゆがめた。
しかし、そんな悠太の発言など気にもしていないのか
春はのんびり、そうですよねぇと返すだけだった。

もし、相合傘なんかで君との関係を変えることが出来るなら。
俺はきっと何百回もいてやる。

なんて。

 

 

「あ」
「あ?」
祐希が指を刺した先にあったのは先日春が見つけた相合傘。
「なっつかしぃ~。」
「そうだね。」
このやり取りは二度目。
そんなに珍しいか。
もういっそ俺には珍しくないよ。
そう思いながら変にはしゃぐ双子の弟を悠太は見ていた。
「これ、良く書いてたよね。」
「そうだね、小学校の頃女子の間ではやってたもんね。」
「いや、じゃなくって悠太が。」
苦い思い出だ。

 

 

相合傘というおまじないを知ったのは小学生の頃。
ませた子の間ではやりだしたソレはあっという間に広まって
トイレの壁やら特別教室の机の上やら
いたる所にその痕跡をのこしていた。
幼く臆病な恋心はこのまじないで特別な何かに昇格できるのではないかと思っていた。
学校にその痕跡を残す事はさすがに恥ずかしく
悠太はこっそり、家に帰ってノートの端に書いた事があった。
書くたび奇妙な気恥ずかしさに襲われ
書いたソレを消したり、紙を捨てたりと言うことを繰り返していた。
しかし、聡い子供であった悠太はこのまじないがまったく無意味なものである事に直ぐに気づいてしまったのだ。
どれほど書いて、どれほど思っても
春にこの気持ちが届く事はなかった。
昨日も、今日も、春は何時もと同じ笑顔で
何時もと同じ態度で。
何時もと同じ。

 

 

 

「うわぁ。やめて、それおにいちゃんの黒歴史。」
「うん、知ってる。」
祐希はにやにやと口元を緩めていて。
からかわれたのか、と悠太は気づいてため息を漏らした。
「あれだね、鉛筆だと効力弱そう。」
「祐希くん。」
「あ、でも油性ペンも色ペンも一緒か。」
「もう、やめて…。」
何が面白いのか祐希は笑いながら廊下を歩いていく。

 

相合傘に乗せた思いは一体何処にいったのか。
悠太はもう一度くすんだ相合傘を見る。

あの相合傘が上手くいって願いが叶っていればいい。
そうすれば、自分の思いも上手く伝わるようなそんな気がする。
だから

がんばれ、「あいこ」!

 

 

 

こぼれる思いは、あふれる気持ちは一体何処で消化されるのか。
一体何処で。
何年越しでもかまわないから、君に届けばいいのに。
君に届けば。

 

 

 

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3000hitを踏んでくださったアリカ様へささげる小説デス。
リクエスト本当にありがとうございました!!
これからもasovivaをよろしくお願いしいたします。

 

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