ふわりと、茉咲のフワフワの髪が揺れた。
風になびく長いウェーブの髪は軽やかで、
とても触り心地の良さそうなそれに思わず手が伸びた。

ポフン

ばっと、力強く手が振り払われる。
「なによ。」
ぎろり、と気の強い釣りあがった目が悠太を見上げる。
「髪ふわふわだなぁって思って。」
さらりと答えると茉咲の眉がぐっとよって
益々不機嫌そうな雰囲気をかもし出した。
「煩いわね!ほっといてよっ。」
茉咲はつん、とそっぽを向いてしまった。
茉咲の機嫌はますます急降下で。
誰も来ない、二人きりの昼休み屋上で悠太は思わず途方にくれた。

 

 

ポフン

「どうしたんですか?」
放課後、部活が終わった帰り道。
少し前を歩く春の髪がふわふわと揺れていて。
思わず昼間の出来事が思い出されて、思わず手が伸びていていた。
ぽんぽん、と頭を撫で回してみる。
ふわふわの髪はとても柔らかく、でも短いそれは適度に手に絡みついた。
それは茉咲の髪とは少し触り心地が違った。
「髪ふわふわだなぁって思って。」
そう言うとへにょっと春の眉が下がる。
春はこのふわふわの髪質がどうも嫌いらしく
それを指摘するたび少し困ったように眉を下げた。
「今日、茉咲にも同じ事言ったらスンゴイ顔で睨まれた。」
「まぁ、天然パーマって嫌なもんですからね。」
「可愛いと、思うんだけどな。」
春は俯いて小さい声で、そうですね。と言った。
妙な沈黙が続く。
あれ?っと悠太は首をかしげた。
「ねぇ、春は又髪伸ばさないの?」
「え?」
「ふわふわ、可愛かったのに。」
もう一度ポフンと髪を撫でる。
じわり、と春の顔が赤くなってきょろきょろと目線をさまよわせた。

 

 

悠太は覚えているだろうか。
それは、中学生の頃。
皆が春の家に遊びに来たときの話。
「ねぇ、この女の子。」
祐希が指を刺したのは居間に置いてある写真立てのひとつだった。
花柄のワンピースを来て、麦藁帽をかぶる髪の長い小さな女の子が写真に写っている。
「あ!」
春は顔を真っ赤にしてその写真立てを取り上げて背中の後ろに隠した。
「え、それ春なの?」
祐希が追い討ちをかけるようにそう言うと、ますます春の顔が赤く染まった。
「いいじゃん、見せてよ。」
「嫌ですよ!恥ずかしいです!」
いやいやと首を横に振る。
「悠太、要。」
そう二人に声をかけると、一斉に三人で春を捕らえた。
「ひどいですぅっ!」
「だって、見たいもん。」
「隠されると気になるしなぁ。」
春の批判もなんのその。
悠太と要も悪乗りをして、春から写真たてを取り上げた。
「うわ。」
思わず要が声を上げる。
その写真の中にいる少女は、本当に愛らしい笑顔を振りまいていて。
ふわふわの長い髪がとても似合う美少女だった。
「これ、本当に春?」
「うぅ…そうです。」
写真を取り上げる事は諦めたのか、真っ赤な顔を俯いて隠しながら春が答える。
「え、でもこれ何歳?」
少なくとも、保育園で自分達が会った頃の春はすでにくるくるの短い髪の毛をしていたはずだ。
「保育園の入園前、ですかね。
入園する直前に髪は切ったんですけど、それまでは伸ばしてたんです。」
小さい頃、それは可愛らしかった春は家族の着せ替え人形だったそうで。
姉のお下がりを着せられたり、髪をリボンで結われたり。
散々遊ばれていたのだという。
「なるほど。」

じっと、悠太はその写真を見つめていた。
ふわりとした髪の毛はとても触り心地が良さそうで。
「髪の毛、伸ばさないの?」
「え?」
「いや、なんとなく。
髪の長い春、かわいいなって思ったから。」
そう呟いて、もう一度写真を見た。

 

 

暫くして、春は髪を又伸ばし始めていた。
ふわふわと揺れるその髪は写真の頃よりも癖が落ち着いているように思えた。
成長して、多少髪の質が変わったのかもしれない。
それでも柔らかに風を受けるその髪は軽やかだ。

「ほら、可愛い。」

そう言った言葉を悠太は覚えているだろうか。

 

 

「髪の毛、長い方がいいですか?」
ポフンと頭に載った手がくりくりと頭を撫で回す。
「そうだなぁ…。」
じっと、春の髪の毛を見つめ
「まぁ、どっちも可愛いからいいんじゃない?」

まぁ、髪の毛が長いほうが
髪の毛結んであげるとか言って触れるし便利なんだけどね。

そんな悠太の心情も知らず、
春はそうですか。と言って照れて俯いた。

 

 

 

 

++++++++++++++

気づけば、悠太が髪の毛フェチみたいになってしまった…。
( ̄ー ̄?).....??アレ??

 

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