広い、海岸。
そこは、昔4人で来た海に似ている。
波打ち際に、小さな男の子。
サラサラとゆれる栗色の髪。
自分のよく知る、大好きな人。

「ゆうたくん!」

大きな声で名前を呼んでみる。
すると男の子はクルリとこちらに向き直った。

「やっぱり、ゆうたくんでした!」

誇らしげに春は笑った。
そして、同時にふと疑問に思った。

あれ?なんで二人が見分けられたんだろう?
悠太には双子の弟の祐希がいる。
二人は本当にそっくりで、後姿だけで見分けるのはまず出来ない。
でも、春には自信があった。
彼が悠太だという自信が。

そんな事を考えていると、悠太がゆっくりと歩み寄ってきた。
「春。」
ぐっと、顔が近づく。
あれ?なんで、悠太君が大きく?
あれ?ここって学校の教室?
あれ?

急な展開についていけづ、瞬きをすると
そこは、何時もの屋上で。
見下ろした先には、女の子と歩く悠太の姿。

あれ?
あれ?

 

「あれ?」
「あぁ?」

目を開けると、目の前には何故か不機嫌そうな顔をした弟の冬樹がいた。
そうか、さっきのは夢なのか。
どうりで不思議なことだらけだと思った。
ぼんやりとそんな事を思っているとベチン、っと顔をたたかれた。

「春兄、起きるの遅い。
学校遅れるぞ。」
え、っと思い部屋の時計を見ると何時もの起床時間より15分も遅れていた。
しかし、元々朝の強い自分が寝坊とは珍しい。
春は自分でも可笑しいな?と思わず首をかしげた。
その様子を横で見ていた冬樹はなんだかモゴモゴと口を動かす。
「何なの、体調でも悪いわけ。」
「え?ううん、大丈夫だと思うけど。」
「じゃぁいいんだけど。」
目、腫れてるぞ。
そう小さい声で言うと、冬樹はスタスタと部屋から出て行ってしまった。
目が腫れてる?
部屋にある鏡をのぞくと、そこには幾つもの涙の跡が残る情けない顔の自分がいた。
「あれ?」

 

 

 

「おはようございます。」
何時もの待ち合わせ場所にいたのは悠太だけだった。
朝見た夢が夢だけに顔を合わせるのがこそばゆい気がなんとなくする。
「おはよ。」
「あの、他の皆さんは?」
「先行ったよ。
珍しいね、春が寝坊なんて。」
どうかした?と顔を覗き込まれて顔がぐっと近くなる。
ふと今朝の夢が思い出されて、春は思わず後ずさった。
「あ。」
「え?」
余り表情の変わらない悠太の顔が微かに歪む。
そこで拒絶するような態度をとってしまったのだと春は気づいた。
「いや、あの。
今のは別に!」
「ううん。
早く、いこ。本当に遅刻する。」
先を歩く悠太の姿を見て春は又今朝の夢がチラついた。
「悠太くん。」
小さな声で名前を呼んでみる。
すると悠太はクルリとこちらに向き直った。
「どうしたの?」
振り向いた悠太は夢の悠太よりずっと大きくなっていて。
あの女の子と歩く悠太と同じ。
ボロリ、と思わず涙がこぼれた。
「え?ちょ、どうしたの?」
いけない、そう思っても春は涙を止められなかった。
「あ、あのっボク…。」
「どうしたの?
遅刻しそうで学校行くの嫌になった?
あ、それともお腹痛い?
飴食べる?」
どこからか取り出したチュッパチャップスをを片手におろおろと気遣う様は少し滑稽で。
「ボク、そんな子供じゃないですよ。」
ふふふっと思わず笑うと、悠太は少しホッとした顔をして。

「あれ?」

もしかして、これって。

ボクは悠太くんの事好きなのかもしれない。
ただの好きじゃなくて、特別な意味で。

 

 

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春ちゃんの脳みそは超発想であってほしい。

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