「甘いものが飲みたいなぁ。」
ぼそりと、春が呟いた。




「あれ、悠太どうした?」
「抹茶クリームフラペチーノください。」
要がレジカウンターで不思議そうな顔をする。
時刻は夜の10時を回っている。
つい数時間前、何時ものように春と帰っていったのを見送ったばかりのような気がして首をかしげた。
「はいはい。
Tall?470円です。」
チャリチャリと小銭が落とされる。
どこかボンヤリとして不服そうな顔だ。
「なぁ、ホントどうした?」
「春が『甘いのが飲みたい』って。」
「は?」
「あぁ~。
もう、どうしよう。」
急にカウンターにつっぷすと、悠太はうわぁと嘆き始めた。
ぎょっとして要は周りを見回すが、幸い夜遅いこともあり並んでいる客もいなければ近くにバイト仲間もいなかった。
「どうしたんだよいったい。」
「なんだか、急に春の機嫌が悪くなっちゃって。」
「ほう。」
「別に何したってわけじゃないとは思うんだけど。」
夕飯美味しく食べてただけなのに。
そう言って回りに重々しい雰囲気を充満させた。


春は優しい。
まるで天使か妖精か?と疑うほどに純粋でいい子だ。
しかし、ごく稀に
気の置けない身内にのみ我侭になる事があった。
元々、弟気質の甘えたな事もあり
時に手が付けられないほどにスネたりする事があるのだ。
きっかけは何時も唐突で
大概がどうしようもなくつまらない事が多い。


「なるほどなぁ。」
ショーケースを開け、ピンクのクリームがかかったケーキを取り出す。
新作のケーキは若い女性にそれなりに受けているようだ。
紙の箱を整え中に入れる。
「かなめ?」
「俺のおごり。春にやって。
少しは気がまぎれんだろ。」
きやすめかもしれないけれど。
そう付け加えると、あまり表情を変えない悠太が申し訳なさそうに笑ったような気がした。




悠太が家に帰ると、春は待ち疲れたのかこたつでぐっすりと眠っていた。
何だか拍子抜けしてふぅっとため息が出る。
こたつで寝ては体に悪いと思い揺り起こす。
「春、春。
寝るなら部屋に行こう。」
暫くすると、とろとろとした目が開き瞬きを繰り返す。
寝ぼけているのか、ふにゃんと笑って抱き寄せられた。
「ゆうたくん。」
「はいはい、悠太ですよ。
ほら、寝ようね。」
「ぅむぅ。」
しばらくもぞもぞと動いていたが
さすがに目が覚めてきたのかぱっと、離れる。
「ほら、春の好きな抹茶クリームフラペチーノ買って来たよ。
あと要がケーキくれたよ。春にドウゾだって。」
もそっと起き上がると悠太の差し出した紙袋を受け取る。
暫くソレを見つめると春はきゅっと眉をひそめた。
悠太はまさか、間違えたか!?っと焦った。
「え、あ、春?」
「ごめんなさい。」
ぼそりと、春は小さな声で呟いた。
「あの、わがまま言って。
寒かったですよね、こんな夜に。
めんどくさかったですよね。」
心なしか、春のくるくるパーマがぺたりとしているような気がする。
「そんな事ないよ。
気にしないで。」
「でも。」
「それより、他に言って欲しい言葉があるんだけどな。」
「あ、」
少し、照れた様に俯くと小さな声で
「ありがとうございます。」
と呟く声が耳に届いた。





君のためならなんのその。
だって、理不尽な我侭すら愛おしいのだ!

 

 

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小悪魔系春ちゃんを押して行きたい今日この頃

 

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