頭から生ぬるい温度のお湯が降りかかる。
酔いはとっくに醒めていて、この状況をどうしようか
それが今最大の難点だった。

 

「ちょっと、まって春!!」
「え?」
押し倒された体を勢いよく戻す。
ベットの上で向かい合う形に落ち着き、春を見た。
どうやら、何がいけなかったのかわかっていなかったようで
キョトンと目を丸くしている。
「あの、ですね。
俺、下?」
「え?あ、えぇ!?
ち、違ったんですか!?」
どうやら、お互いとんでもない思い違いをしていたらしい。
確かに、今までそういった確認をした事はなかった。
そして、春のほうが女性役だと勝手に思い込んでいたのだ。
もちろん、春もまったく同じで。
自分が抱かれる側だなんて考えていなかったのだろう。
ベットの上で、正座したまま。
重い沈黙がのしかかる。

「あの。」
「はい。」
「ちょっと、シャワーを浴びてきます。」
「あ、はい。」
その沈黙に耐えかねた悠太は足早に風呂場へと立ち去っていった。

 

ぐるぐると思考が回る。
一体どうしたらいいものか。
いっそ、春のために諦めるか?
…いや、なんか、無理。

「あの、悠太くん。」
「…はい。」
「大丈夫ですか?
すごく、遅いので心配になっちゃって…。」
ふと、風呂場の時計を見ると30分以上たっているようで。
手を見ると皮膚が皺々になっていた。

 

風呂から上がると、春はベットの上で正座をしたままだった。
気まずい、非常に気まずい。
いっそこのまま、何もなかった事にして寝てしまおうか。
「悠太くん。」
「いや、もう寝よう。
さっきは酔ってたんだよ。
ごめん。」
「ちょっとまってください!」
ぐいっと腕をつかまれる。
「あの、僕考えたんです。」
顔を真っ赤にしながらも、必死に春は続けた。
「手を繋いだり、一緒に寝たり。
そういうのだけでも、ボクはとっても幸せです。
でも、もしその先があって
悠太くんがそれを望んでいて。
だったら、ボク。」
すっと、息を吸い込んだ。
「悠太くんに、その
抱かれてもいいって思ったんです。」
もう、最後は小さくて。
どうにか聞こえるぐらいの声で。
でも、春は目を離さずに言い切った。
「いいの?」
「はい。」
そっと、手を握るとその手は少し震えていて。
それでも、春は何時もの優しい笑顔でニッコリと笑ってくれた。

 

ぐいっと、ベットに押し倒す。
馬鹿みたいに心臓がバクバクといって煩かった。
緊張していると、ふふっと春が声を出して笑った。
「ちょっと何笑ってんですか。」
「いえ、悠太くんすごい緊張した顔してるから。」
少しむっとする。
春は何故だか余裕の笑顔で、悠太一人緊張しているように見えた。
「なんで、そんなに余裕なわけ?」
「?そんなつもりなかったんですが…。」
こてんと小首をかしげる姿はとても子供っぽくて。
これから何をしようとしているのか、分かっていないような無邪気さだった。
「ほら、きっと大丈夫だと思ってるからでしょうか?」
「大丈夫?」
「はい、悠太くんになら何されてもいいなって思ってるんで。」
さも当たり前のことのようにさらりと出た言葉に思わず固まる。
何されてもいいて、
いいって!
「悠太くん?」
「ふぅ、大丈夫。大丈夫ですよ。」
心の中で壮大にもだえながら、悠太は平静を装いニッコリと笑った。

触れるようなキスを繰り返す。
それはとても幼稚なキスで、ただ愛しいと言う思いだけをこめて繰り返した。
キスをしながらゆっくりと寝巻きのボタンをはずす。
多少手間取りながらもボタンはすべて外れ、春の白い肌があらわになった。
小さな頃から見慣れた春の裸だったけれど、こういう場面で改めてみるとどうにも艶っぽく見えて。
ドキドキしながら胸に触れるとドクドクと心臓の音が手に響く。
とても暖かく、幸せなふるえがした。
思わずそっと、胸に耳を近づけてみると「ふへっ」と変な声が上がった。
瞬時にぐいっと頭をつかまれる。
「春?」
「えっと、髪くすぐったくて。」
顔を赤くしながら、春が答える。
そういえば、春はくすぐられるの苦手だったなっと思い出した。
わき腹に手を添えると、又「ふひゃっ」っと色気のない声が上がる。
「春。」
「はい。」
「くすぐったいのは分かるんだけど、少し我慢してみてくれない?」
少し、眉をひそめながらも春はこくんとうなずいた。

昔、くすぐったがりは感じやすい。
っという話を聞いた事がある。

本当かどうかは知らないけれど。
それを信じて、悠太は春の首筋にキスをしたり、背中を撫でたりしてみた。
春は、そのたびビクリっと体を揺らしうぅっと小さく唸る。
感じているかどうかはわからなかったけれど、悠太はその柔らかな肌を撫でる事が気持ちよかった。
しばらく、そうしているとぐいっと髪の毛を引かれた。
驚いて顔を上げると、春が目に涙を溜めて悠太を見つめていた。
「ゆ、たく…。」
それはとろんとしたとろけきった顔で。
悠太の顔に一気に熱が集まる。
もしかして、感じてくれたのか?
そう思いそっと、下半身に手を伸ばすと寝巻きのズボンを押し上げる熱いものに手が触れた。
ビクリと大きく体が震え耐え切れなくなったのか、春がぎゅっと目を閉じた。
もう、いてもたってもいられなくなった悠太は一気に春のズボンとパンツをずり下ろす。
まさか、急に下ろされると思っていなかった春はあわててそれを阻止した。
「ちょっ!ま待ってください!」
「え、なんで?」
「え!?あ、えっと。」
ここで「やっぱり怖いからやめよう」などと言われたらどうしよう。
今更やめる事なんて出来ないし、それは春も同じはずだ。
「大丈夫だよ」
声をかけると顔を真っ赤にしながらも抵抗は弱く力をなくした。

「あの、後ろ向いてもらってもいい?」
春はいわれるがままくるっと後ろを向いた。
聞き覚えの知識で、男性同士のセックスには肛門を使う事は知っていた。
少し腰を抱え、突き出すような形にして。
小さくすぼまった穴が見え悠太はドキドキとした。
そっと触るとそこは硬く指一本も入りそうにない。
「ゆうたくん?」
後ろを振り返って不安そうに春が悠太を見つめる。
悠太は自分の人差し指を口に含み適度に湿らすと、春の穴にゆっくりと突き刺した。
「いっ!?」
瞬間、春の体がガタガタと震えだす。
「え、春?」
指はまだ中ほどまでしか進んでいいない。
「い、たい…。」
慌てて、顔を覗き込むと顔を真っ青にした春がボタボタと大粒の涙を流していて。
さっきまでの興奮は一瞬でとんでいってしまった。

 

 

 

 

「ごめんなさい…。」
「もういいってば。」
「でも…。」
ぐず、っと小さく鼻をすする声が聞こえる。
はぁ、っと悠太はため息をはいた。
「俺の知識が、足りなかったんだよ。」
昔、読んだ本の知識で事足りるほど
実際の男性同士のセックスは簡単なものではなかったのだ。
急な展開でこうなったとはいえ、実にふがいない。
悠太はとても後悔していた。
なにより、春がとても責任を感じて落ち込んでしまっている事も気がかりで。
「春、もう泣かないでよ。」
ベットの中。
二人抱き合って眠る。
それだけでも、幸せである事に違いはないのだ。
「あの、」
「ん?」
ずっと、鼻をすする音。
胸にぐりぐりと頭が押し付けられる。
「絶対、次はするんですからっ。」
「え?」
「リ、リベンジです!」
もう二度としない、と言われるよりはいいけれど。
どうにも、色気がない次回の誘いに悠太は苦笑いを漏らした。

 

 

 

 

++++++++++++++

こんな展開にするつもりはなかったのに。
( ^ω^ )どうしてこうなった!?

絶対にリベンジする。絶対にだ!

 

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