・始めて話。
・本番は後編なので、前編にそういった表現はありません。
ぐらぐらと視界が歪む。
腕に張り付いた柔らかく生暖かい感触が気持ち悪い。
「大丈夫?悠太くん?」
「平気です。」
少しでも離れてくれないか、と思い
ぐいっとひじを曲げて押して見る。
しかし、柔らかな肉にその衝撃は吸収され余計に密着する結果になった。
なにしてんだろ
火照った頭はうまく動かない。
今日はゼミの飲み会だった。
馬鹿みたいに騒がしい空間で馬鹿みたいに飲まされた。
何時もは酒を勧められてもやんわりと断って、無難に済ますところだったのに
夏前だからとか、意味のわからない事を言われ
それはもう、強制的にあおられ続け
気がつけば、一人で真っ直ぐ歩けないほどに泥酔してしまっていた。
失敗した
その言葉だけが頭を埋め尽くす。
結果、悠太に気のあるらしい先輩が親切心と言う名の下心で
家まで送ってくださっている、という状況になってしまったのだ。
家に帰れば、春が待っている。
時間は0時少し前。
明日も学校なので、寝てしまっているのだろうか。
角を曲がると小さなアパートが見えた。
二階の一番端が明るく光っている。
まだ起きているのか、待っていてくれていたのか。
思わず口元が緩む。
「悠太くんの家、あのアパートよね。何階?」
何かねだるような目線が斜め下から向けられる。
これ以上は本当に結構だ。
立ち止まって、両手で先輩を押しのける。
もし、これでゼミで居づらくなってもいい。
「あの、恋人が待っているんで。
ここまでで結構です。」
彼女の大きく見開いた目も、わなわなと震えるピンクの唇も。
どうでもいいと思うぐらい、ただ気持ち悪かった。
鍵をグルリト回すと、勝手にドアが開いた。
「おかえりなさい。」
黄緑色の寝巻きを着た春が、出迎えてくれる。
胃からこみ上げる気持ち悪さも少し治まったような気がする。
「ただいま、まだ起きてたんだ。」
「はい、課題をしてたらこんな時間になっただけですよ。」
けして、待っていたと相手に負担になるような事は言わない。
そんな春の気遣いに胸が熱くなる。
あぁ、自分は酔っているんだな。
そうそう、酔ってるなら仕方ない。
そう言い訳しながらぎゅっと春に抱きついた。
「悠太くん?」
「しゅん、すき。」
「はい、ボクもですよ。」
ぽんぽん、と頭を撫でられて心が和む。
しかし、すぐに春は離れてしまった。
あれ?と思っていると腕をぐいぐいと引っ張られる。
「ほら、酔ってる。
お風呂入ってきたらどうですか?」
にこにこと笑うその顔に少し違和感を覚えた。
「春?」
「はい?」
「なんか、どうかした?」
もしかして、酔って帰ってきた事を怒っているのだろうか。
しかし、春がその程度で怒るとも思えない。
うろうろと目線をさせて、口がもごもごと動く。
どうせ隠し事など出来ない性格なのだからいっそ言ってしまえばいいのに。
ぐいっと、顔を近づけて下から覗き込んでみる。
どうにも、春はこの距離が苦手なようで
あっというまに顔を赤くしてうつむいてしまう。
うん、可愛い。
「あの、ほら。なんか。」
「うん?」
「すごく、甘い匂いが…。」
「匂い?」
「香水?ちがうなぁ、お化粧?
そんな匂いです。」
言われて、先ほどまでべったりと張り付いてきた先輩を思い出す。
「なんだか、やだなぁって…。
あ、でも少し思っただけなんですよ!」
おどおどと目線をさまよわせる様は可愛くて。
まさか、あのおっとりした春が嫉妬をしてくれるだなんて思ってみなかった。
なんだろう、感動した。
感動しすぎて、気づいたら春をベットに押し倒していた。
あれ?
一緒に住み始めて3ヶ月。
付き合い始めて半年程度。
まぁ、特に大きな衝突もなく幸せな交際を続けてはいるものの
片思い暦は10数年。
悠太はすっかり手の出すタイミングを見事に失っていた。
一応、キスはした。
バードだけど。
でも、いくらその気になってみても春ににっこりと微笑まれると
そういう考えをしているほうが可笑しいんじゃないかとすら思えてくる。
しかし、悠太も男なのである。
そういう気分にもなるし、毎日隣でぐっすり寝る春を恨めしいと思った事か。
それがまさか、こんな形でなし崩しにいってしまうのか?
「悠太くん?」
「いや、あの。
これはですね、春さん。」
酔っ払うって恐ろしい。
本気でそう思っている。
押し倒そうとか、思ってなかったというのに。
いや、するにしてももっと雰囲気とか、色々ちゃんと…。
「ゆうたくん。」
「はい。」
「退いて頂けると、ありがたいんですが?」
「えっと…。」
どうする?
このまま、だと一生出来ないかもしれないんだぞ。
でも、でも。
コテンと小首をかしげる春の細い首筋にドキリとする。
眉をひそめて見上げる表情はどこか大人っぽい。
もう、いいんじゃないか。
だって、ほら、酔ってるんだから。
「あの、春さん。」
「はい?」
「せ、セックスしませんか。」
噛んだ。
そして、尋常じゃないくらい顔が熱い。
春はキョトンとした後、言葉の意味を理解したのか少し顔を赤らめた。
「えっと…。」
「はい。」
「あの、ボク。
そういうの、した事なくて。」
「はい。」
「なので…。」
ぐらと視界が歪む。
何時の間にやら、視界が反転して春の顔が上に見える。
「なので、痛かったら直ぐに言ってくださいね!」
「え?はぁ!?」
酔いが一気に醒めた。
++++++++++++++
中途半端ですが後編へ。
あと、念のために、当サイトは100%ゆたしゅん押しです!!w