大学生という職業は世界で一番暇な職業かもしれない。
そんな事を考えながら悠太は駅前のスタバでコーヒーをすすった。

進学を機に春と同棲する事になってからというもの
予定がない日は夕方にここへ来るのが日課になっていた。
チラリと腕時計を確認すると18時前。
何時も通りならそろそろ春が改札口から出てくるはずだ。
あと少し、あと少し。

電車がホームに滑りこむ。
きっと、あの電車に乗っているはず。
悠太は急いでコーヒーの残りを飲み終わると足早に店内を出た。
出ると丁度改札を抜けた春と目が合った。
「悠太くん。」
ニッコリと微笑みながらふわふわの髪を揺らして駆け寄ってくる。
かわいいなぁ、なんて思わず顔がにやけた。
もちろん、春にかっこ悪い所など見せられないのですぐに何時もの表情へと戻す。
「お帰り。今日も遅くまでご苦労様。」
春は、保育園の先生を目指して短大に通っている。
その為、毎日夕方まで授業が入っているのだ。
一方、悠太は地元の国立大に入学した為基本的に時間に余裕のある生活を送っている。
なので、ほぼ毎日このように迎えに来ていたりするわけだ。

「あの、駅前のスーパー今日卵安いんですよね。」
「じゃぁ帰りによっていこうか。」
はい、とにこやかに微笑む顔に再度顔がにやける。
おっといけない。

夕方のスーパーはそれなりに混んでいて。
卵を買うのに少し苦労したり。
今日は卵料理ですね。
なんて、言ったものの中々メニューを決められずうんうんと春は悩んで。
少し後ろから眺めるその姿をずっと見ていたいくらいかわいらしい。
結局無難にオムライスに決めたらしく、てきぱきと残りの食材を購入してスーパーを出た。
「あら、一緒に買い物なんて。
仲のいいカップルねぇ。」
なんて、レジの時におばさんに声かけられたりして。

 

二人並んで、スーパーの袋を一つずつ持ちながら夕暮れの道を歩く。
ただ、それだけで気持ちが満たされていくのを感じる。

きっと幸せってこういう何でもない事をいうのだろうな。
うんきっとそうだ。

隣を見ると、目線の少し下に春のつむじが見えて、左右にふわふわと髪が揺れていて。
ふらふらと安定感のない春の足取りは昔から変わらない。
まるでひよこのようでかわいらしい。

「あの、悠太君。」
「ん?」
「手、繋いでいいですか?」

えへへ。
と笑いながら空いている手を差し出されて。
「ほら、チャーミーグリーンみたいでしょ。」
「あれって、昼間の坂道じゃなかったっけ?」
なんて、馬鹿みたいな会話して。

 

一緒に帰って、買い物して。
夕暮れの道を歩いたりして。
そんな毎日がずっと続いていけばいいな。
なんて。

 

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